精神科の治療がうまくいかないときに|診断・原因・治療の不確実性と見直し方
精神科で治療を続けてもなかなか良くならない、診断や治療方針に疑問を感じる、主治医に自分の考えや希望を十分に伝えられない。
そのような悩みを抱えている方は少なくありません。
精神科診療には、診断・原因・治療のそれぞれに、ある程度の不確実さがあります。そのことを知っておくと、今の診断や治療をどのように考えればよいのか、治療がうまくいかないときに何を見直せばよいのかが分かりやすくなります。
診断の不確実性
そもそも、精神科の診断はどのようにつくられてきたのでしょうか。
病気の原因が分かっていて、その原因を調べることができれば、それをもとに診断できます。しかし、後で説明するように、精神科の病気の原因はまだ分かっていません。
そこで精神科では、多くの患者さんに似たような症状の組み合わせがみられるなら、それを一つの病気として扱おうという考え方がとられてきました。
現在、精神科で広く使われている診断基準にDSMがあります。その大きな土台となったDSM-IIIは、1980年につくられました。当時の専門家たちが、それぞれが考えていた精神科の病気の症状のイメージを持ち寄り、話し合い、どのような症状の組み合わせを一つの病気として扱うかを決めました。
この基本的な考え方は、現在まで大きく変わっていません。
つまり、DSMなどで決められている一つひとつの診断名の背景に、本当にそれぞれ別の病気が存在しているのかは、これまで確認できていません。
仮に本当にそれぞれの病気が存在するとしても、現在の診断基準による病気の分け方が、本当に正しい分け方なのかどうかも確認できていません。
(一方で、これまで非常に多くの方が実際に精神を病み、こうした診断基準によって診断され、治療を受け、問題を解決してきました。
そのことは、完全ではないとしても、現在の診断基準が実際の診療では役に立っていることを示しています。)
また、DSMは、診断基準を絶対的なものとして機械的に当てはめるのではなく、医師の臨床的な判断とあわせて使うことが前提とされています。
そのため、実際の診療では、患者さんの症状の現れ方や経過を詳しくみる、従来からの精神医学的な考え方である古典精神病理学も参考にして、総合的に診断します。
さらに、精神科の診断には、患者さんが自分の状態をどのように伝えるか、医師がその話をどのように受け取るか、といった主観的な部分もあります。
そして、症状そのものも時間とともに変わっていきます。
このような不確実さがあるため、精神科の診断は一度つけたら固定されるものではなく、その後の経過をみながら、常に慎重に見直していく必要があります。
そして、重要なことは、病名によって、ご自身の可能性まで狭めてしまう必要はないと言うことです。
原因の不確実性
精神疾患の原因については、遺伝、ストレス、セロトニン、脳の神経回路など、さまざまなものが関係すると考えられています。
ただし、研究で分かることの多くは、「その病気と一緒にみられやすい」という関連です。
それが本当に病気を引き起こしているのかという因果関係は分かっていません。
因果関係を証明するためには、例えばセロトニンをつくる遺伝子を壊したり、人に強いストレスを与えたりして、その結果として精神疾患が起こるかどうかを確かめる必要があります。
しかし、そのようなことを人間に対して行うことは倫理的にできません。
そのため、精神疾患と関係するものは数多く見つかっていても、それが本当に原因なのかどうかを証明することはできていません。
治療の不確実性
治療の効果は、臨床試験という研究で確かめられます。
ただし、そこで分かるのは、大勢の人に薬を使った場合に、平均するとどのくらい効くかということです。
つまり、平均的には効果がある薬でも、実際にはよく効く人もいれば、まったく効かない人もいます。
そして、効かない人の割合は意外に多くあります。
例えば抗うつ薬は、うつ病に対して、全体としては一定の効果があることが分かっていますが、ある一剤を投与したとすると、実際には約50%の人にしか反応しません。
また、約30%の人は、2種類以上の抗うつ薬を使っても十分に反応しません。このような状態を治療抵抗性うつ病と呼びます。
しかし、悲観する必要はありません。
だからこそ精神医学では、最初の治療が十分に効かなかった場合に、次にどのような治療を行うべきかという研究が数多く行われてきました。
薬を変更する、別の薬を加える、薬以外の治療を組み合わせるなど、有効な選択肢は確かに存在します。
また、治療の結果を左右するのは薬だけではありません。
主治医との相性や信頼関係、治療について十分に納得できているかといったことも、治療の経過に影響します。
さらに、先ほど述べたように、精神科の診断には医師の主観的な判断が関わる部分があります。
そのため、治療がなかなかうまくいかない場合には、別の医師があらためて診察することで、これまでとは違う診断や病気の捉え方が示され、それに伴って治療方針が変わり、うまくいくこともあります。
つまり、一つの薬や一人の医師のもとで治療がうまくいかなかったからといって、精神科治療そのものがうまくいかないとは限りません。
すぐに治療を諦めず、薬だけでなく、診断や治療方針、主治医との関係も含めて見直していくことが大切です。
まとめ
精神科診療には、このような不確実さがあります。
問題は、患者さんに分かりやすく説明しようとする中で、結果として、不確実な知識を確実な知識のように患者さんへ提示してしまうことがあることです。
例えば、
「この症候群を便宜的にうつ病と呼んでいる」
「この治療は集団平均では有効だった」
「この所見はうつ病と関連している」
というレベルの知識なのに、臨床では時に、
「あなたはうつ病という病気です」
「脳の○○が原因です」
「この薬でその異常を治します」
という、証拠が支えている範囲を超えた説明に変換されることがあります。
こういった説明をされた患者さんの治療がうまくいかない時、患者さんとして医師に不信感を持ち、治療を中断してしまうことは想像に難くありません。
そのため、こういった不確実性を曖昧にせず、常に慎重に診断や治療を見直すことを大事にしています。
また、治療がうまくいかない時には、薬だけを見直せばよいとは限りません。
診断そのものが適切なのか、今の治療方針が合っているのか、主治医との間で十分に話し合えているのかも見直す必要があります。
もし、今の主治医に疑問を伝えにくい、説明に納得できない、どうしても信頼できないと感じるのであれば、別の医師の意見を聞くセカンドオピニオンや、主治医・医療機関を変更することも選択肢になります。
一人の医師とうまくいかなかったからといって、治療そのものを諦める必要はありません。
診断や治療について疑問に感じることがあれば、遠慮なく教えてください。
なぜその診断を考えているのか、なぜその治療を行っているのかを共有することで、納得したうえで治療を受けていただくことができます。
また、患者さんから疑問や新しい情報を教えていただくことは、私たちにとっても、診断や治療が本当に適切なのかを見直すきっかけになります。
これまで、複数の治療を行っても十分な改善が得られない「治療抵抗性」と呼ばれる状態について、研究に取り組んできました。
治療を続けても十分に良くならなかった方、診断や治療方針を一度見直してみたい方も、ぜひお気軽にご相談ください。