アルツハイマー病の薬の効果は?|アリセプト・ケサンラ・レケンビを比較
アルツハイマー病の薬:どれくらい効果があるか
アリセプト(ドネペジル)とケサンラ(ドナネマブ)を、できるだけ同じ物差しで比較します
レケンビ(レカネマブ)について:ネットワークメタ解析(NMA)の間接比較では、レケンビの効果は現時点ではケサンラと大きな違いは検出されていないと考えてください。以下の詳しい数値は、ケサンラの試験データで説明します。参考:ネットワークメタ解析
単純な目安:MMSE(認知機能検査)で23あるいは24点が、認知症の診断がつく程度の認知機能低下のだいたいの目安になります。MMSE 24点から、平均2点/年ずつ低下すると仮定すると、24 ÷ 2 = 約12年です。実際の進行は一定ではなく個人差があります。
比較・推計の限界:本ページでは、アリセプトとケサンラの代表的な長期のランダム化比較試験を用いて解説しています。両試験では患者群、介入内容など複数の要素が異なるため、厳密な比較はできません。また、各ランダム化比較試験の期間を超えてMMSEの点数が0になるまで推計していますが、認知機能低下は初期には遅く、中期には速くなるという特徴を考慮していません。この点も推計の不確実性になります。
1. MMSE(患者さん本人が行う認知機能検査)でみた効果
| 比較項目 | アリセプト | ケサンラ |
|---|---|---|
| 試験結果 | 26週でプラセボよりMMSEが約1.05点良好。 | 76週でプラセボ -2.94点、ケサンラ -2.47点。差0.47点 = 約16%の進行抑制。 |
| 時間に換算 | 約1点 ÷ 2点/年 ≒ 約0.5年 → 約6か月分。 | 16%の抑制が長期間続くと仮定:12年 × 16% = 約1.9年分。 |
| 意味 | 投与初期に認知機能を少し改善する「症状改善薬」です。投与初期以降はこの改善幅のまま経過していくことが想定されています。 | 病気の進行を遅らせることが想定されている「疾患修飾薬」です。継続的に改善幅が拡大していくことが想定されています。 |
2. MMSE以外の指標では、もう少し大きな効果が出ています
ケサンラの76週・全体集団での結果です。
| 指標 | 相対的な抑制 | 絶対差 | 何をみる検査か |
|---|---|---|---|
| MMSE | 約16% | 0.47点 | 本人が行う認知機能検査 |
| ADAS-Cog13 | 19.5% | 1.33点 | より詳しい認知機能検査 |
| iADRS | 22.3% | 2.92点 | 認知機能+日常生活機能 |
| ADCS-iADL | 27.8% | 1.70点 | 買い物・家事・外出などの日常生活機能 |
| CDR-SB | 28.9% | 0.70点 | 認知機能+生活機能の総合評価 |
MMSE・ADAS-Cogは本人が直接受ける認知検査で、進行抑制は約16~20%でした。iADRS・ADCS-iADL・CDR-SBは日常生活機能や家族・介護者からの情報も含み、約22~29%でした。後者は実生活で複数の認知機能を組み合わせて使う能力を拾える一方、家族・介護者の評価が入るため主観的な影響を受ける可能性もあります。
3. 約3年の長期データ
- 3年時点のMMSEデータはありません。
- 長期延長試験では、早期からケサンラを開始した群は、外部対照(ADNI)より3年時点のCDR-SBが1.2点良好でした。早期開始群は遅延開始群より次の病期へ進むリスクも27%低下しました。
- ただし76週以降は「3年間ずっとプラセボと比較したRCT」ではないため、この効果の大きさには不確実性があります。また、3年以降のデータはMMSEに限らず発表されていないため、わかりません。
ケサンラの副作用・通院負担・費用
4. 最も重要な安全性:ARIA(脳のむくみ・出血)と死亡
死亡について:有効性を検証した76週のプラセボ対照RCTでは、全死亡はケサンラ1.9%(16/853)に対しプラセボ1.1%(10/874)でした。ケサンラ群では重篤なARIAの後に3例(約0.35%)が死亡しました。
現在の日本の用法は、350 → 700 → 1050 → 1400mgと段階的に増量します。現行用法(350mg開始群)の76週時の主な安全性データです。
| ARIA-E | 症候性ARIA-E | ARIA-H | 脳出血 | 注入反応 |
|---|---|---|---|---|
| 15.6% | 2.8% | 25.5% | 0.9% | 17.9% |
ARIA-E:脳の一部にむくみ(浮腫)や液体のたまりがMRIでみられる副作用。症状が出る場合は頭痛、混乱、ふらつき、視覚・言語障害、けいれん等があります。
ARIA-H:脳の微小出血や、脳表への血液成分(ヘモジデリン)の沈着がMRIでみられる副作用。
注入反応:点滴中~点滴後に起こる発熱、寒気、吐き気、頭痛、血圧変動、息苦しさ等の反応。投与後は少なくとも30分観察します。
5. APOE ε4を持つ人はARIAリスクが高くなります
現行の段階的増量法(350mg開始群)の遺伝子型別頻度:
| 副作用 | ε4なし | ε4 1本 | ε4 2本(ホモ) |
|---|---|---|---|
| ARIA-E | 13.3% | 15.7% | 23.8% |
| ARIA-H | 20.0% | 28.7% | 28.6% |
APOE ε4が2本ある人ではARIA-Eが高い傾向です。ただし現行用法のε4 2本群は21例と少数で、数値には不確実性があります。投与前にAPOE遺伝子検査を検討します。
6. 実際の治療負担
- 対象:アルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症で、MMSE 20~28点、CDR全般スコア0.5または1。アミロイドPETまたは髄液検査でアミロイド病理を確認します。
- ケサンラが使えない方:重篤なアレルギー歴、開始前MRIで脳のむくみ(血管原性脳浮腫)、脳微小出血5個以上、脳表ヘモジデリン沈着、1cm超の脳出血のいずれかがある方は禁忌です。1.5T以上のMRIを受けられない方、無症候のアミロイド陽性者、中等度以降の認知症も対象外です。
- 4週間に1回、少なくとも30分の点滴。終了後も少なくとも30分は観察します。
- MRI:開始前に加え、2回目・3回目・4回目・7回目の投与前、その後は6か月ごと。症状があれば追加MRIが必要です。
- 6か月ごとにMMSE・CDRなどを評価。12か月頃にアミロイドPETで治療終了を検討し、プラークが除去されれば終了。除去されなくても原則最長18か月です。
- アリセプトは通常1日1回の内服で、点滴や定期MRIは不要です。主な副作用は吐き気、下痢、食欲低下、徐脈・失神などです。
7. 費用の目安(薬剤費)
| 比較項目 | アリセプト | ケサンラ |
|---|---|---|
| 薬価の目安 | ドネペジル5mgの後発品:1錠約20.5~37.8円 → 薬剤費は年約0.75~1.38万円。 | 12か月・14回投与なら薬剤費総額約335万円。 |
| 自己負担の目安 | 3割なら薬剤費だけで年約0.22~0.41万円(後発5mgの場合)。 | 高額療養費を申請される方が多いです。 |
| 別にかかる費用 | 通常の診察・検査費。 | 診察、点滴手技、MRI、アミロイドPET・髄液検査など。高額療養費制度で実際の負担は大きく変わります。 |
費用について:実際の自己負担額は、保険の負担割合、所得、高額療養費制度、検査内容によって変わります。ケサンラの治療費は紹介先医療機関でご確認ください。
医学的確認・参考文献
本ページは、精神科医師が医学的妥当性を確認しています。医学的内容の最終確認日:2026年8月21日
- 抗アミロイドβ抗体薬等のネットワークメタ解析(Ageing Research Reviews, 2024)
- 厚生労働省「ドナネマブ最適使用推進ガイドライン」(2025年8月改訂)
- PMDA「ケサンラ電子添文・適正使用情報」
- TRAILBLAZER-ALZ 2(JAMA, 2023)
- TRAILBLAZER-ALZ 6
- Cochrane Review:アルツハイマー病に対するドネペジル
※「12年 × 16% = 約1.9年」は効果をイメージするための単純推計であり、12年間の実測結果ではありません。
※本ページは一般的な医学情報であり、個別の診断・治療の代わりになるものではありません。