治療可能な認知症・二次性認知機能障害
最終更新日:2026年8月27日
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物忘れや判断力の低下の背景には、原因を治療することで認知機能や生活機能の改善が期待できる病気があります。このページでは、特発性正常圧水頭症、内分泌・栄養障害、感染症、薬剤、アルコール、うつ病などの見分け方、検査、治療、受診の目安を解説します。
症状から考えるべき「改善し得る原因」
認知機能の低下を評価するときは、アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患だけでなく、治療対象となる身体疾患、薬剤、栄養、感染症、精神疾患を同時に調べます。原因によっては、物忘れより先に歩きにくさ、眠気、意欲低下、しびれ、頭痛、排尿の変化が目立ちます。
特に、数日から数か月で急に変わった場合、症状が一日の中で大きく揺れる場合、発熱や意識の変化、片側の手足の動かしにくさを伴う場合は、長年かけて進む認知症とは時間の流れが異なります。せん妄(注意や意識が短時間で変動する状態)、脳卒中、感染症、頭蓋内の出血などを優先して評価します。
一方、治療できる原因と神経変性疾患が同時に存在することもあります。甲状腺機能やビタミンを補正してもすべての症状が消えるとは限らず、治療後の経過を見ながら診断を組み直す姿勢が必要です。
こんな変化はありませんか
- 物忘れに加えて、歩幅が小さくなり、足が床に張り付くように歩く
- 尿を我慢しにくくなり、歩行や考える速さも低下してきた
- 軽い転倒や頭部打撲の数週間後から、頭痛、眠気、ふらつきが増えた
- 以前より寒がりになり、便秘、むくみ、声のかすれ、動作の遅さが重なった
- 手足のしびれ、ふらつき、舌の痛みとともに集中しにくくなった
- 食事量の低下、偏った食事、胃や腸の手術後に、物忘れや無気力が目立つ
- 薬が増えた後から、日中の眠気、ぼんやり、転倒、混乱が始まった
- 飲酒量が増え、同じ話の繰り返し、作り話のような記憶の補い、歩行の不安定さがある
- 気分の落ち込みや不安が強く、考えがまとまらず、家事や支払いに時間がかかる
- 性格や判断の変化に、けいれん、視力・聴力の変化、歩行障害が加わった
一つ当てはまっても、それだけで特定の病気とは診断できません。加齢、睡眠不足、痛み、視力・聴力の低下でも似た困りごとが起こります。始まった時期、変化の速さ、日常生活への影響をまとめて評価することが重要です。
「治療可能」という言葉の受け止め方
「治療可能な認知症」は、原因に対する治療法がある、または悪化させる要因を減らせる病態をまとめた臨床上の呼び方です。完全に元の状態へ戻ることを約束する言葉ではなく、治療開始までの期間、障害の程度、年齢、併存疾患によって回復幅が変わります。
例えば、慢性硬膜下血腫は血腫への治療、甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの補充、神経梅毒は抗菌薬が原因治療になります。特発性正常圧水頭症では、診断を慎重に行ったうえで髄液シャント手術を検討します。薬剤性では処方全体の見直し、うつ病では症状と重症度に応じた精神療法や薬物療法などが中心です。
治療しても認知機能が十分に改善しない場合は、診断が誤っていたとすぐ結論づけず、回復に必要な時間、治療の達成度、別の原因の併存を再評価します。治療前の生活機能を記録し、同じ方法で経過を比べると判断しやすくなります。
原因別にみる特徴と治療
特発性正常圧水頭症
特発性正常圧水頭症は、脳脊髄液の循環・吸収の障害が関係し、脳の中の脳室が広がる病気です。歩行障害、認知機能障害、排尿障害が代表的で、歩行の変化が早く目立つことがよくあります。小刻み、すり足、方向転換の不安定さ、足を開いた歩き方などが手がかりです。認知面では、記憶だけでなく、考える速さ、注意、段取りを組む力が低下しやすくなります。
診断は症状と頭部MRIなどの画像所見を組み合わせます。腰から脳脊髄液を一定量抜き、歩行や認知機能の変化を見るタップテストを行うことがあります。結果だけで手術の可否を機械的に決めず、画像、症状、併存疾患、手術リスクを脳神経外科などで総合します。髄液シャント手術で改善が期待できる一方、改善の程度には個人差があり、感染、出血、過剰な排液などの合併症も踏まえて判断します。
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫は、脳を覆う硬膜の内側に血液がゆっくりたまる病気です。高齢者では軽い頭部打撲を覚えていないこともあり、数週間から数か月後に頭痛、ぼんやり、歩行の不安定さ、性格の変化、片側の力の入りにくさ、言葉の出にくさとして現れます。抗凝固薬や抗血小板薬を使用している人、飲酒量が多い人では特に注意します。
頭部CTやMRIで確認し、症状と血腫による圧迫の程度に応じて、経過観察または脳神経外科での処置を検討します。意識が下がる、片側の手足が動かない、けいれん、突然の激しい頭痛があるときは、通常の外来予約を待たず救急受診が必要です。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症では、体の代謝を調整する甲状腺ホルモンが不足し、思考の遅さ、集中力や記憶力の低下、抑うつ、眠気が起こります。寒がり、便秘、皮膚の乾燥、むくみ、体重増加、脈の遅さなどが診断の手がかりになりますが、症状だけで確定はできません。
血液中のTSHと遊離T4などを測定し、明らかな機能低下があれば、原因や全身状態を確認して甲状腺ホルモンを補充します。ごく軽い検査値の変化と認知機能の関係は一様でないため、検査値が少し外れただけで全症状を甲状腺に帰することは避けます。治療後も認知症、うつ病、睡眠障害などの併存を見直します。
ビタミンB12欠乏症
ビタミンB12欠乏症は、考える速さや記憶、注意の低下に加え、手足のしびれ、感覚の低下、ふらつき、舌の痛み、貧血を起こします。胃の手術、吸収障害、自己免疫による悪性貧血、偏った食事、長期服薬の影響などを確認します。貧血や赤血球の大きさの異常が目立たなくても、神経・精神症状が先に出ることがあります。
血算と血清ビタミンB12を基本に、結果が境界域で臨床的な疑いが強ければ追加検査を検討します。原因と重症度に応じて内服または注射で補充します。血液所見は改善しても、長く続いた神経障害が残る場合があるため、補充後の症状と検査値を追います。
葉酸欠乏症
葉酸欠乏症では、巨赤芽球性貧血、疲労、食欲低下とともに認知・気分の変化がみられることがあります。摂取不足、アルコール、吸収障害、妊娠、薬剤など背景はさまざまです。低い葉酸値と認知機能低下の関連が報告されている一方、葉酸を補えば認知症全般が改善するという意味にはなりません。
葉酸を補充する前にビタミンB12欠乏の有無を確認します。葉酸だけで貧血が改善すると、B12欠乏による神経障害を見えにくくする可能性があるためです。食事内容の調整と、欠乏を招いた病気や薬剤への対応も並行します。
神経梅毒
神経梅毒は、梅毒を起こす細菌が中枢神経に関わる状態で、感染のどの時期にも生じ得ます。記憶・判断力の低下、性格の変化、抑うつ、幻覚や妄想、歩行障害、感覚障害、脳卒中様症状、眼や耳の症状など現れ方は多様です。過去の感染機会を本人が認識していないこともあります。
血液の梅毒検査を組み合わせ、神経症状があれば脳脊髄液検査などを検討します。単一の検査だけで全例を診断できるわけではなく、症状、血液、髄液所見を統合します。治療は病院でのペニシリン系抗菌薬が基本です。感染を治療しても長く続いた神経障害が残ることがあるため、治療後の血液検査と臨床経過を確認します。検査や相談ではプライバシーに配慮します。
薬剤性認知機能障害
薬剤性認知機能障害では、薬の開始・増量・組み合わせの変化に続いて、眠気、注意低下、混乱、物忘れ、転倒が現れます。抗コリン作用の強い薬、睡眠薬・抗不安薬、鎮静を起こす薬、オピオイドなどが関係することがあります。複数の薬が少しずつ影響する「抗コリン負荷」や、腎機能・肝機能の低下で薬が体に残りやすくなる状況も確認します。
処方薬だけでなく、市販のかぜ薬・アレルギー薬、サプリメント、他院の薬を含む一覧が診断に役立ちます。治療は必要性、用量、代替薬、減量順序を処方医と検討することです。睡眠薬や抗不安薬などは急な中止で離脱症状やけいれんを招くことがあるため、自己判断で止めないでください。
アルコール関連認知障害
アルコール関連認知障害には、長期の多量飲酒による脳への影響、ビタミンB1不足、肝障害、頭部外傷、睡眠障害、離脱の反復など複数の要因が関わります。記憶、計画性、判断、感情の調整、歩行が障害されます。ウェルニッケ脳症では、意識や注意の変化、眼球運動の異常、ふらつきが典型ですが、三つがそろう例は一部にとどまります。
急な混乱、歩行不能、目の動きの異常、栄養不良がある場合は救急で評価し、疑いがあれば医療機関でビタミンB1を投与します。依存がある人の急な断酒は、振戦、発汗、けいれん、せん妄など重い離脱を起こすことがあるため、医療者と安全な減酒・断酒計画を立てます。栄養補充だけに絞らず、飲酒問題への治療と生活支援を組み合わせます。
うつ病に伴う認知機能低下
うつ病では、注意を保つ力、情報を処理する速さ、記憶を取り出す力、段取りを組む力が低下し、本人には強い物忘れとして感じられます。気分の落ち込み、興味や喜びの低下、睡眠・食欲の変化、自責感、朝に強い不調などを一緒に確認します。かつて「仮性認知症」と呼ばれたことがありますが、うつ病と神経変性疾患は併存し、経過の途中で認知症が明らかになる例もあるため、二者択一の見方は適しません。
診断では発症の時期、気分症状との時間関係、認知課題への取り組み方、日常生活の変化、家族から見た経過を確認します。治療は重症度や希望に応じ、精神療法、生活・環境調整、薬物療法などを選びます。気分が改善した後も認知機能低下が続く場合は、認知症や身体疾患を改めて評価します。死にたい気持ちや具体的な自殺計画がある場合は緊急の対応が必要です。
医師はどう診断を組み立てるか
診断の出発点は、検査点数よりも「以前できていたことが、いつから、どの速さで難しくなったか」です。本人の説明と、日常を知る家族などからの情報を合わせ、認知機能、身体・神経所見、生活機能、気分、薬剤を一つの時間軸に並べます。
初診で確認すること
- 数日、数週間、数年のどの時間幅で変化したか、症状が変動するか
- 服薬管理、支払い、調理、買い物、交通機関の利用に変化があるか
- 歩行、転倒、排尿、頭痛、けいれん、しびれ、片麻痺があるか
- 頭部打撲、手術、胃腸疾患、感染症、甲状腺疾患などの既往があるか
- 処方薬、市販薬、サプリメントがいつ追加・変更されたか
- 食事、体重、飲酒量、睡眠、気分、意欲がどう変わったか
「忘れたことを覚えていない」「思い出すまで時間がかかる」などの違いも手がかりになりますが、一つの受け答えで病型を決めることはできません。診察室で保たれていても家庭で支障が大きいことがあるため、具体的な出来事を確認します。
検査で分かることと分からないこと
認知機能検査や心理検査は、記憶、注意、言語、視空間認知、実行機能などの得意・不得意を整理し、経過を比べるために使います。点数だけで原因疾患を確定せず、教育歴、聴力・視力、疲労、睡眠、気分の影響を考慮します。
血液検査では、血算、電解質、血糖、肝・腎機能、甲状腺機能、ビタミンB12・葉酸などを症状に応じて選び、感染症検査も必要性と本人の同意を踏まえて追加します。頭部画像は、慢性硬膜下血腫、脳室拡大、脳卒中、腫瘍などを調べるうえで重要です。画像だけでうつ病や薬剤性を判定することはできません。
MRIなどの画像検査、詳しい神経心理検査、脳脊髄液検査が必要な場合は、目的と緊急度を整理して連携医療機関へ紹介します。すべての人に同じ検査一式を行うのではなく、経過と所見から検査前の可能性を考えて選択します。
原因治療と認知機能回復の見通し
治療の中心は、見つかった原因を安全に治療し、その間の転倒、服薬ミス、低栄養などを防ぐことです。補充療法や薬剤調整では数週から数か月かけて変化をみることがあり、血腫や水頭症では専門科で処置・手術の適応を判断します。感染症や急性脳症では時間を優先し、入院治療が必要になります。
回復の評価は、検査点数だけでなく、歩行、会話、金銭管理、家事、外出など本人にとって重要な機能で行います。原因が是正されても脳が回復するまで時間を要する場合があり、リハビリテーションや生活環境の調整が役立ちます。
改善が乏しいときは、治療量や服薬継続、再発・合併症、別の身体疾患、睡眠障害、うつ病、アルツハイマー型認知症などの併存を再確認します。原因治療の終了後も、一定期間は同じ評価方法で経過を見ることが診断の精度を高めます。
家庭でできる安全対策と生活調整
診断が定まるまでの期間も、生活事故を減らす対応は始められます。家族は失敗を試すのではなく、最近の変化を日付と具体例で記録してください。薬、お金、火の使用、運転について危険が生じていないかを確認し、必要なら一時的に家族が一緒に管理します。
- 服薬一覧を一つにまとめ、処方医・薬局へ市販薬とサプリメントも伝える
- 転倒しやすい場合は床の障害物や夜間の動線を見直し、一人での入浴を検討する
- 低栄養が疑われる場合は食事量と体重を記録し、原因評価を受ける
- 飲酒量が多い場合は隠さず伝え、依存が疑われるときは自宅で急に断酒しない
- 通帳、契約、運転で判断ミスがある場合は、回復の評価が済むまで安全を優先する
家族が管理を引き受ける範囲は、本人の能力と意思を尊重しながら必要最小限にします。介護保険などの支援は原因疾患だけで自動的に決まるものではなく、年齢、生活上の支障、認定条件に応じて申請を検討します。
受診の目安と緊急性
近日中に外来へ相談したい変化
数週から数か月で物忘れや段取りの悪さが進んだ、薬の変更後からぼんやりする、歩行や排尿の変化が重なった、食事・体重・飲酒・気分に大きな変化がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。頭部打撲の後は、当日元気でも遅れて症状が出ることがあります。
救急受診が必要な状態
次の状態では通常の認知症外来を待たず、救急要請を含め、直ちに救急医療機関へ連絡してください。
- 急に呼びかけへの反応が悪くなった、意識が揺れる
- 片側の手足や顔が動かしにくい、急に言葉が出ない
- けいれん、突然の激しい頭痛、繰り返す嘔吐がある
- 発熱、首の硬さ、強い頭痛とともに混乱している
- 多量飲酒の中断後に振戦、幻覚、けいれん、激しい興奮がある
- 自殺の具体的な計画、自傷、他者への危険がある
当院での診かた
当院では、症状の始まりと経過、生活機能、睡眠、気分、飲酒、身体疾患、服薬を確認し、身体・神経学的所見、院内での認知機能・心理検査、必要な血液検査を組み合わせて評価します。ご家族からの具体的な情報が診断に役立つため、可能であれば普段の様子が分かる方の同席やメモをご準備ください。
一度の診察で原因が確定しない場合があります。MRIや高度な画像検査、脳脊髄液検査、脳神経外科・神経内科・感染症科などの診療が必要と判断したときは、緊急度に応じて連携医療機関へ紹介します。救急性がある症状は当院の予約日を待たず、救急医療機関を受診してください。
よくある質問
原因を治療すれば認知機能は元に戻りますか
改善する可能性はありますが、回復の程度は原因、重症度、治療までの期間、併存する脳疾患によって異なります。歩行や注意が先に改善し、記憶の回復には時間がかかることもあります。治療前後を同じ生活課題と検査で比べます。
血液検査だけで原因は分かりますか
血液検査で甲状腺機能、貧血、ビタミン欠乏、肝・腎機能、感染症の一部を調べられますが、それだけで全原因を判定することはできません。経過、診察、認知機能、画像を組み合わせ、必要時に髄液検査などを追加します。
薬が原因かもしれないときは中止してよいですか
自己判断で急に中止せず、処方医へ相談してください。薬によっては離脱、原病の悪化、けいれんなどを招きます。すべての薬と開始・増量時期を確認し、必要性と安全性を比較しながら一剤ずつ調整します。
ビタミン剤を先に飲んでもよいですか
検査前の大量摂取は欠乏の判断を難しくするため、まず医療者へ相談するのが安全です。特に葉酸は、ビタミンB12欠乏の貧血だけを目立たなくする可能性があります。食事由来の不足か、吸収障害や病気があるかも確認します。
うつ病と認知症はどう見分けますか
気分症状との時間関係、困り方、認知機能のパターン、生活機能、治療後の経過から判断します。うつ病でも認知機能は低下し、認知症の初期に抑うつが出ることもあります。両方が重なる可能性を残し、経過を追うことが重要です。
家族だけでも相談できますか
受診方法は事前確認が必要ですが、家族の観察は評価に役立ちます。本人の診察と検査が診断の中心になるため、変化の時期、具体的な失敗、服薬一覧、既往歴をまとめ、可能な形で本人の受診につなげてください。緊急症状がある場合は家族相談より救急対応を優先します。
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この記事は精神科医が監修しています。