アルコール使用症
最終更新日:2026年08月25日
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アルコール使用症は、飲酒を減らしたいと思っても調整しにくくなり、健康、仕事、家庭などへの影響が続く状態です。診断では飲酒量に加え、制御の難しさや離脱症状を確認します。このページで、気づきやすいサイン、診断、断酒・減酒、適切な離脱、薬、生活上の対応、受診の目安まで分かります。
アルコール使用症とは――飲酒量より「コントロールと影響」を見ます
アルコール使用症は、飲酒の仕方を自分で調整しにくくなり、その結果として健康や生活に明らかな支障が生じても飲酒が続く状態です。軽い段階から重い段階まで幅があり、以前「アルコール乱用」「アルコール依存症」と分けていた状態を、DSM-5-TRという診断体系では一つの連続した病気として扱います。
診断の中心は、酒量の数字だけに置きません。「2杯まで」と決めても止められない、二日酔いで欠勤する、家族との衝突が増える、手の震えを抑えるために迎え酒をする、といった変化を過去12か月の経過から確認します。毎日飲む人に問題がない場合もあれば、週末だけの飲酒でも事故や生活上の損失を繰り返す場合があります。
飲酒は、眠気を起こしても睡眠の後半を浅くし、不安や気分の落ち込みを長引かせることがあります。肝機能の数値が保たれていても、飲酒行動の制御や生活への影響に問題があれば診療の対象になります。
こんなサイン・症状はありませんか
- 飲み始める前に決めた量や時間を、たびたび超えてしまう
- 休肝日を作ろう、今月は減らそうと思っても続かない
- 仕事中や移動中にも、次に飲むことが頭から離れない
- 飲酒や二日酔いのため、遅刻、欠勤、家事の遅れ、約束のキャンセルが増えた
- 家族や同僚に注意され、隠れて飲む、量を少なく伝えるようになった
- 肝障害、高血圧、胃腸症状、気分の落ち込みなどを指摘されても飲み続けている
- 以前と同じ量では酔いにくくなり、飲む量が増えた
- 飲まないと手の震え、汗、動悸、吐き気、不眠、強い不安やいらだちが出る
- 朝や昼から飲む、症状を抑えるために迎え酒をする
- 飲酒後の記憶が抜ける、転倒やけが、飲酒運転などの危険が起きた
- 趣味や人付き合いより、飲酒と酔いから回復する時間が優先されている
毎日飲むと病気?多量飲酒とアルコール使用症の違い
多量飲酒は将来の病気やけがの危険を示し、アルコール使用症は飲酒の制御と現在の支障を含めて判断します。両者は重なることが多い一方、同じ意味では扱いません。
厚生労働省は、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として1日平均の純アルコール量が男性40g以上、女性20g以上という指標を示しています。これは集団の健康づくりに使う目安です。個人の「安全量」や診断の境界には使いません。病気ごとにリスクが上がる量は異なり、体格、年齢、体質、服薬、妊娠などでも影響が変わります。
純アルコール量は「飲んだ量(mL)×アルコール度数×0.8」で計算します。たとえば5%のビール500mLには約20g、15%の日本酒1合(180mL)には約22gが含まれます。
判断の中心:健康リスクの高い飲酒では純アルコール量や飲み方を確認します。アルコール使用症では、制御の難しさ、渇望、生活上の支障、耐性・離脱を確認します。
毎日の飲酒:飲酒頻度は健康リスクの評価に影響します。アルコール使用症の診断には、毎日という条件を置きません。
健康診断:健康リスクの高い飲酒では検査数値が悪化することがあります。アルコール使用症は、採血が正常でも診断されることがあります。
対応:健康リスクの高い飲酒には飲酒量の把握と減酒支援を行います。アルコール使用症には、症状の程度に応じて心理社会的治療、断酒・減酒、薬、離脱管理を組み合わせます。
この一覧は考え方を整理する目安です。個々の状態では両方が重なり、飲酒量が少なくても重大な危険が生じることがあります。
症状は「飲み方・生活・からだ」に現れます
アルコール使用症の症状は、酔っている時間だけに現れません。飲む前の強い欲求、飲酒後の生活上の問題、飲まない時間の離脱症状まで一続きに評価します。
飲み方を調整しにくくなる
量、飲み始める時刻、終える時刻を決めても守れない状態が繰り返されます。減らそうと何度も試してもうまくいかず、飲酒する場所を探すことや酒を用意することに多くの時間を使います。飲みたい感覚である渇望が強まり、会議中や家族との時間にもお酒が気になることがあります。
お酒を優先し、問題があっても続く
遅刻や欠勤、家事・育児の遅れ、対人トラブルが起きても飲酒が続き、趣味や社会活動が減っていきます。肝障害、膵炎、高血圧、抑うつ、不眠などを悪化させると理解していても調整できないことも、重要な症状です。飲酒後の運転、機械操作、転倒しやすい場所での行動は、一度でも深刻な結果につながります。
耐性と離脱症状が起こる
耐性は、以前と同じ酔いを得るために多くの酒量が必要になる変化です。離脱症状は、飲酒量を減らしたり酒が切れたりしたときに起こる手の震え、発汗、動悸、吐き気、不眠、不安、いらだちなどを指します。症状を抑えるための迎え酒は、身体的な依存が進んでいる手がかりになります。
飲み方を変えたいと思った段階でご相談ください
断酒を決めていなくても受診いただけます。飲酒量やこれまでの経過、体調、睡眠、服用中のお薬を確認し、減らし方・やめ方を当院で一緒に計画します。まず今の飲み方を整理したい、というご相談から始められます。
原因は一つに決まらず、体質と環境が重なります
発症には、遺伝的ななりやすさ、アルコールによる脳の報酬・ストレス反応の変化、飲酒を始めた時期や飲み方、身近で酒を得やすい環境、ストレス、不眠、併存する精神・身体疾患などが重なります。どれか一つを全員の原因として説明できる段階には至っていません。
飲酒を繰り返すと、酔いによる報酬や、酒が切れたときの不快感から逃れる行動が学習されます。さらに習慣化が進むと、長期的な不利益を理解していても目の前の飲酒を優先しやすくなります。意志の強さだけで経過を説明すると、離脱や併存症など治療できる要因を見落とします。
診断では何を確認するのか
診断は問診を中心に、飲酒の制御、生活への影響、危険な使用、耐性・離脱を過去12か月の経過から総合します。質問票や採血は判断を助けますが、それだけで診断を確定しません。
診断基準の考え方
DSM-5-TRでは、予定より多く長く飲む、減らす試みがうまくいかない、飲酒に多くの時間を使う、渇望、仕事・学校・家庭の役割を果たせない、対人問題が続く、活動を減らす、危険な状況で飲む、心身の問題が悪化しても続ける、耐性、離脱という11項目を確認します。過去12か月に2項目以上が当てはまると診断を検討し、2~3項目を軽度、4~5項目を中等度、6項目以上を重度とします。
ICD-11では、有害な飲酒パターンとアルコール依存を分けて記述します。診断体系により区分や名称が少し異なるため、基準名だけを自己判断に使うより、実際の困りごとと経過を医師へ伝える方が役立ちます。
初診で医師が確認していること
- 「何を、どのくらい、何時から何時まで飲むか」――純アルコール量と飲酒パターンを把握します。
- 「減らそうとして、どこで崩れたか」――制御の難しさと、飲酒を引き起こす場面を確認します。
- 「欠勤、事故、家族との衝突、飲酒運転があったか」――酒量の数字に表れない損失と他者への危険を確認します。
- 「飲酒前から気分の波、不安、不眠があったか」――独立した精神疾患とアルコールによる症状を区別します。
- 「睡眠薬、抗不安薬、鎮痛薬、他の物質を使っているか」――相互作用、重複する依存、離脱の危険を調べます。
- 「肝臓・膵臓・心臓の病気、転倒、食事量の低下があるか」――治療目標と必要な身体治療を決めます。
本人の記憶が曖昧な場合や、飲酒量の把握が難しい場合には、ご本人の同意を得て家族から情報を伺うことがあります。一度の診察で、アルコールによる症状と併存症の関係まで確定できないこともあります。
AUDIT・採血で分かること
AUDITは、飲酒量、制御の難しさ、飲酒による問題を10項目で確認するスクリーニング質問票です。問題を見つけて詳しい診察へつなげる目的で使い、点数だけで病名を決めません。
採血では、肝機能、血球、電解質、栄養状態などを必要に応じて確認します。結果が正常でも飲酒行動の問題は残り得ます。反対に肝機能異常があっても、脂肪肝、ウイルス性肝炎、薬剤など別の原因を検討します。診断を確定する単独の血液検査や画像検査はありません。
似た状態や併存症をどう見分けるか
飲酒は気分、睡眠、認知機能、身体症状を変えるため、酒の影響で起きた症状と、別に存在する病気を時間経過から区別します。両方が同時にあることも多く、経過に応じて診断や治療の優先順位を見直します。
双極症との違い
双極症の躁状態・軽躁状態では、睡眠が少なくても活動的になり、気分の高揚、話し続ける、浪費、危険行動とともに飲酒が増えることがあります。酔いによる一時的な多弁や興奮だけか、飲酒していない時期にも数日以上の気分・活動性の変化が続いたかが手がかりです。双極症が併存すると薬の選択が変わるため、過去の活動的な時期も確認します。
他の薬物・薬剤との関係
睡眠薬や抗不安薬の一部、オピオイド鎮痛薬、市販薬、違法薬物を併用すると、眠気、呼吸抑制、転倒、記憶障害が強まり、複数の離脱が重なることがあります。処方薬も含め、自己判断で一度に中止すると危険な場合があります。診察では薬の名前、量、最終使用時刻を確認します。
治療は相談と目標設定から始めます
治療の中心は、現在の飲酒量と体調を確認し、ご本人と減酒または断酒の目標を相談して決め、無理のない方法を続けることです。薬は目的に合う場合に組み合わせ、身体疾患、精神疾患、家族・仕事上の問題も並行して扱います。
心理社会的治療――回復の中心
心理社会的治療では、飲酒日記で量と場面を見える形にし、飲酒したくなるきっかけ、断り方、代わりの行動、再飲酒したときの立て直し方を具体的に決めます。動機づけ面接は、飲み続けたい気持ちと変えたい気持ちの両方を整理する方法です。認知行動療法では、飲酒につながる考え方と行動の連鎖を検討し、別の対処を練習します。
断酒と減酒をどう選ぶか
重い依存、離脱けいれん・せん妄の既往、重大な肝障害などの身体合併症、妊娠、飲酒に伴う事故や深刻な家庭・社会問題がある場合は、断酒を基本に検討します。軽症で重大な合併症がなく、本人が減酒を希望する場合は、量と飲まない日を決めて経過を測る方法があります。
断酒への準備が整わない段階でも、受診を中断せず減酒から始めることがあります。減酒目標を守れない、害が減らない、離脱が起こる場合は、目標と治療環境を見直します。飲酒量の調整は体調に合わせた計画が大切なため、診察で相談しながら進めます。
薬物療法で期待できること
薬は飲酒欲求や再飲酒の危険を下げる補助となり、心理社会的治療と組み合わせます。平均的な効果は有意でも大きさは中等度以下で、効果には個人差があります。治療目標、腎機能・肝機能、併用薬、服用を続けやすいかを見て選びます。
- アカンプロサート:断酒開始後に、断酒を維持しやすくするために使います。下痢などが起こることがあり、腎機能によって使用できない場合があります。効き目は一回ごとの強い実感より、数週間から数か月の断酒経過で評価します。
- ナルメフェン:断酒より飲酒量低減が適切と判断された一部の方に、心理社会的治療と併用します。吐き気、めまい、眠気などがあり、オピオイド鎮痛薬との併用に重要な制限があります。離脱症状を治す薬としては使いません。
- ジスルフィラム、シアナミド:飲酒すると顔面紅潮、動悸、吐き気、血圧低下などを起こす抗酒薬です。断酒への動機があり、作用と危険を理解した方に慎重に使います。肝機能などの確認が必要です。
薬の効果が乏しいときは、服用状況だけでなく、離脱、飲酒目標、飲酒を招く環境、うつ病・双極症・不眠、他の薬物、身体疾患を再評価します。服用期間や中止時期は薬ごとに異なり、数か月単位で診察しながら決めます。自己判断で開始・増減・中止しないでください。
経過と再発予防――数か月単位で飲酒パターンを変える
回復には、離脱を無理なく終える短期の段階と、飲酒に頼らない行動を作る長期の段階があります。最初の数日には離脱、数週間には睡眠や気分の変動が課題になり、その後は仕事、対人関係、飲酒のきっかけへの対処を整えます。身体症状の回復速度は臓器障害の種類と重さで変わります。
治療中に再び飲むことが起きたら、量、きっかけ、離脱の有無、事故の危険を確認し、計画を修正します。治療をやめる合図として扱うより、支援の強さや目標を見直す情報として使います。飲酒日記、定期受診、酒を置かない環境、飲酒を勧められる場面への準備、支援者との連絡方法が再発予防に役立ちます。
寛解(症状が一定期間おさまった状態)に入っても、強いストレス、不眠、飲酒機会で渇望が戻ることがあります。安定後も通院や自助グループなど、ご本人に合う支えを急に全部なくさないことが再発予防につながります。
仕事・学校・家族はどう対応するか
生活上の対応では、治療を続けられる時間を確保し、飲酒・二日酔い・離脱による事故を防ぐことを優先します。休むか続けるかは病名だけで決めず、仕事内容、注意点、欠勤、身体状態、家庭環境から判断します。
働きながら治療する場合と休む場合
症状が軽く、無理なく通院でき、仕事上の支障が限られていれば、働きながら飲酒記録と治療を続ける方法があります。運転、高所作業、重機操作、医療・介護など他者の生活に関わる仕事では、酔い、二日酔い、離脱、薬の眠気をより厳しく評価します。
ご家族も一緒に相談できます
飲酒について、どのように声をかければよいか、生活上の負担をどう整理するかも診察で相談できます。ご本人を責めず、ご家族だけで抱え込まない方法を一緒に考えます。
利用できる可能性のある制度
継続的な精神科通院が必要な場合、自立支援医療(精神通院医療)により対象となる通院医療費の自己負担が軽減されることがあります。会社員などの健康保険の被保険者が療養のため働けず、給与などの支給条件を満たす場合は、傷病手当金を利用できることがあります。いずれも診断だけで自動的に利用できる制度ではなく、病状、加入状況、所得、自治体の審査などの条件があります。
受診の目安と当院での診かた
「依存症と確信してから」受診する必要はなく、減らしたいのに続かない、健康や生活への影響が出た段階が相談の目安です。早い段階では、飲酒記録と短い支援から始められる場合があります。
受診を検討する具体的な目安
- 決めた量を守れない状態や、減酒の失敗が繰り返される
- 健診で肝機能、高血圧、脂質、血糖などを指摘され、飲酒が続いている
- 不眠、不安、気分の落ち込みを抑えるために飲むようになった
- 遅刻、欠勤、家事・育児への影響、家族との衝突が出ている
- 朝酒、迎え酒、手の震え、発汗、動悸などがある
- 飲酒後の記憶が抜ける、転倒、けが、事故が起きた
- 家族が量や行動の変化を心配している
当院で確認すること
当院では、飲む種類・量・頻度・時間帯、最後に飲んだ時刻、減酒の経過、離脱症状、事故や生活への影響を伺います。睡眠、気分、不安、仕事・家庭生活、身体疾患、服薬、他の物質の使用も確認し、必要に応じて採血などの身体面評価を行います。
よくある質問
毎日飲んでいなくてもアルコール使用症になりますか?
はい。毎日という条件はなく、過去12か月の制御の難しさと支障から判断します。週末だけでも、予定量を大きく超える、けがや対人問題を繰り返す、減らせない状態があれば評価の対象になります。
自分で減らせていても相談できますか?
はい。減らせた量や続けやすかった工夫を確認し、今後の目標と体調の見守り方を一緒に整理します。断酒を決めていない段階でもご相談ください。
断酒と減酒のどちらを選びますか?
症状の程度、離脱歴、身体・精神の合併症、飲酒に伴う危険、ご本人の希望から選びます。重い依存や重大な合併症では断酒を基本に考えます。軽症で重大な合併症がなく、減酒を希望する場合は、期限と評価方法を決めて取り組むことがあります。
寝酒を減らすと眠れなくなりませんか?
減らし始めに不眠が強くなる場合があります。離脱症状としての不眠なら、適切な離脱計画が必要です。飲酒は寝つきを早めても夜の後半の睡眠を浅くするため、長期的には睡眠を悪化させやすく、睡眠の原因評価と治療を並行します。
薬だけで治療できますか?
薬だけに任せる治療は勧めません。国内の承認薬も、断酒維持や飲酒量低減を補助する位置づけです。飲酒日記、心理社会的治療、環境調整、身体・精神の併存症への対応と組み合わせます。
参考文献
- 厚生労働省.健康に配慮した飲酒に関するガイドライン.2024年
- 日本アルコール・アディクション医学会・日本アルコール関連問題学会.新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き.第1版.2018年
- World Health Organization. Clinical descriptions and diagnostic requirements for ICD-11 mental, behavioural and neurodevelopmental disorders. 2024
- National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism. Alcohol Use Disorder: From Risk to Diagnosis to Recovery
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- American Society of Addiction Medicine. The ASAM Clinical Practice Guideline on Alcohol Withdrawal Management. 2020
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA).レグテクト錠333mg 医薬品情報
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「まだ受診するほどではないかも」と感じている方へ
飲酒量や頻度が増え、減らしたいのに思うように調整できないなら、ご相談のタイミングです。診断名が分からなくても、症状をうまく説明できなくても構いません。
当院では、現在のお困りごとや生活への影響を一緒に整理し、ご希望を伺いながら治療方針を考えます。話す内容をあらかじめまとめる必要はありません。気になっていることからお聞かせください。
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この記事は精神科医が監修しています。
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