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Substance-use-disorder

薬物・処方薬・市販薬使用症

物質使用症(薬物・処方薬・市販薬)

最終更新日:2026年09月06日

約14分で読めます

物質使用症は、薬物・処方薬・市販薬などの使用を自分で調整しにくくなり、健康、睡眠、仕事、学業、人間関係などに影響が広がる状態です。医師の処方から始まった薬や、薬局で買える薬も対象になります。このページでは、使用と病気の境界、診断、減らし方を含む治療、再び使いたくなる場面への備え、受診の目安を説明します。

薬の使用で問題になりやすいのは、違法か合法かという区分だけではなく、コントロールと生活への影響です。眠れない、不安が強い、痛い、気分を変えたいなど、切実な理由から使い始める人もいます。薬が一時的に症状を和らげるほど、同じ方法を繰り返しやすくなります。

医師から処方された睡眠薬・抗不安薬・鎮痛薬なども、指示より多く使う、予定より早くなくなる、薬のことが一日の中心になるといった変化が起こる場合があります。市販のせき止め、かぜ薬、鎮痛薬などでも同様です。一方、長期間服用していることだけで使用症と決めることはできません。

診察では、使用を責めるより、何を和らげるために使っているか、どの場面で増えるかを整理します。「やめる自信がまだない」「まず量を減らしたい」という段階も治療の出発点になります。

薬の使い方に現れるサイン

使用症のサインは、量だけでなく、考える時間、入手方法、使用後の生活にも現れます。

  • 決めた量や回数より多く使う日が増えた
  • 減らそうと決めても、予定どおりに進まないことが続く
  • 薬を使う時間、手に入れる方法、残りの数を考える時間が増えた
  • 同じ感じを得るため、以前より量が必要になったと感じる
  • 減らした日に眠れない、落ち着かない、気分が沈むなどの変化が出る
  • 処方日より早く薬がなくなり、追加分を探すことがある
  • 複数の店を回って同じ市販薬を買う、購入履歴を隠すことがある
  • 使用後の眠気や集中低下で、遅刻、欠勤、ミスが増えた
  • 家族や医師に使用量を少なく伝えるようになった
  • 健康や人間関係への影響を感じても、同じ使い方が続いている

一つ当てはまれば直ちに診断されるという一覧ではなく、相談時に確認したい変化です。薬の種類、使い方、期間、もとの症状、生活への影響を合わせて判断します。薬の名前が分からない場合は、包装やお薬手帳が情報になります。

薬を使うことと使用症の違い

薬を飲んでいる事実より、使い方を選ぶ力が保たれているか、ほかの生活を押しのけていないかが境界の手がかりです。必要な薬を長く使う人もいます。反対に、期間が短くても、決めた量を超える、使用を隠す、仕事や学業へ影響するなどが重なると、使用症を検討します。

ICD-11では、使用を調整しにくいこと、ほかの活動より使用の優先度が上がること、同じ効果に必要な量の変化や減量時の体調変化などを診断の中心に置きます。DSM-5-TRでは、コントロール、生活上の結果、身体的な変化に関する複数の項目を過去12か月で確認し、当てはまる数から程度も評価します。実際の診療では診断基準と個別の経過を合わせます。

処方薬でも使用症になることがある

処方薬では、最初の目的と現在の使い方を分けて確認します。たとえば不眠に対して処方された薬が、日中の不安を抑えるためにも必要になり、服用回数が増えることがあります。適切な服用を続けている人に身体の慣れが生じる場合もあり、それだけで使用症と判断しません。

判断の手がかりは、指示を超える使用、減らす試みの難しさ、薬へのとらわれ、生活上の不利益があっても続くことです。背景の不眠や不安を放置して量だけを動かすと計画が続きにくいため、もとの症状も一緒に扱います。

市販薬で気づきにくい変化

市販薬は自分で購入できるため、使った総量を本人も把握しにくいことがあります。せき止めや総合感冒薬などには複数の成分が含まれ、同じ商品名でも種類によって成分量が異なる場合があります。商品名、錠数、回数、購入頻度をメモすると全体像をつかみやすくなります。

「気分を変える」「嫌なことを考えない」「眠る」ための使用が増えたときは、表面の使用量と同時に、その役割を確認します。使用を減らす計画と、代わりに気持ちや睡眠を整える方法をセットで考えます。

やめたい気持ちがあっても使用が続く仕組み

使用症の原因は一つに絞れません。薬の作用、遺伝的ななりやすさ、ストレスへの反応、過去の体験、痛みや不眠、うつ・不安・発達特性、周囲での入手しやすさなどが関係します。同じ薬を使っても経過には個人差があります。

薬で苦痛がすぐ軽くなると、脳は「この場面では薬を使う」と学習します。眠れない夜、仕事後の緊張、孤独、給料日、特定の場所や人などが合図となり、使いたい感覚が起こります。使用後の短期的な楽さが、翌日の不調や人間関係への影響より強く意識されることも、繰り返しを支える要因です。

繰り返すうちに同じ量で得られる感覚が変わり、量や回数が増えることがあります。減らした際の不眠や不安を「元の病気が悪化した」と受け取り、再び使う場合もあります。治療では、もとの症状、薬への慣れ、使用の引き金を分けて理解します。

医師はどのように診断するか

診断では、薬物名より先に、使用パターンとその結果を確認します。一回の使用や検査結果だけで使用症を決めず、コントロール、優先度、身体的な変化、健康・仕事・学業・家庭への影響を時間軸で見ます。

初診で確認していること

  • 薬の商品名・成分・一回量・一日の回数:複数製品の重なりも整理します。
  • 使い始めた理由と増えた時期:不眠、痛み、不安、対人ストレスなどの背景を探ります。
  • 減らそうとした経験:うまくいった条件と難しかった場面を治療に生かします。
  • 使う前後の気分、睡眠、体調:短期的な効果と翌日以降の影響を分けます。
  • 仕事、学校、家計、人間関係:本人が変えたい生活上の目標を具体化します。
  • 処方元、市販薬の購入、飲酒、カフェイン:相互作用と総使用量を確認します。
  • 過去の治療、持病、現在の薬:減量計画と併存症の治療へ反映します。

量を正確に思い出せないことは珍しくありません。責任を問う質問より、実行できる計画を作るための情報収集として進めます。話せる範囲から始め、その後の記録で補えます。

検査で分かること、分からないこと

尿や血液の検査は、特定の成分への曝露や身体への影響を確認する補助になります。ただし、使用症の診断は検出の有無だけで決まりません。市販薬のすべての成分が一般的な検査に反映されるわけでもなく、検出できる期間も物質ごとに異なります。

問診票も、使用の程度と変化を共有する道具です。検査や点数と、本人が困っている生活場面を合わせることで治療目標が具体的になります。

もとの症状や、似た状態との違い

不眠、不安、抑うつ、慢性痛、ADHDなどが先にあり、対処のために薬が増えることがあります。反対に、薬の作用や使用後の反動として、眠気、焦り、気分の落ち込み、集中困難、疑い深さが現れることもあります。どちらが先だったか、使用しない時間帯にどう変わるかを確認します。

双極症の躁・軽躁では、睡眠が短くても活動的になり、衝動的な使用が増える場合があります。うつ病や不安症が併存すれば、使用症と並行して扱う必要があります。症状が物質だけで説明できるかを一度で決めず、経過から見直すことがあります。

治療は使用の記録と目標づくりから始める

治療の中心は、使用のパターンを見える形にし、本人が取り組める目標を決め、引き金への対応を練習することです。処方薬・市販薬では、薬の性質ともとの症状を踏まえて減らし方を計画します。診断名を受け入れてから始める必要はなく、困っている一場面の改善から取り組めます。

減らし方を一緒に計画する

最初に、商品名、使用量、時間、使う前の気分、使った後の変化を短期間記録します。そのうえで、一回量を整える、追加使用まで時間を置く、購入回数を減らす、別の対処を先に試すなど、具体的な目標を選びます。処方薬は、現在量と服用期間に合わせ、医師と段階的な計画を作ります。

目標は減量や使用しない生活など、薬の種類と本人の希望に応じて設定します。途中で計画どおりにならない日があれば、量を隠すより、その日の睡眠、気分、場所、人間関係を振り返ることで次の方法が見つかります。

認知行動療法と再使用予防

認知行動療法では、使用に至る「引き金、考え、感情、行動、結果」の流れを整理します。たとえば帰宅後の孤独が引き金なら、薬を使いたい感覚が強まる前に人へ連絡する、入浴や食事を先にする、薬を目に入りにくい場所へ置くなど、実行可能な代替行動を試します。

動機づけ面接は、変えたい気持ちと続けたい気持ちの両方を扱い、自分に合う目標を明確にする方法です。報酬を用いて望ましい行動を強める随伴性マネジメントや、家族・パートナーと行う行動療法にも物質によって根拠があります。治療法は物質、生活環境、本人の希望に合わせて選びます。

薬物療法の役割

使用症全体に共通して効く一種類の薬はありません。物質によっては使用量や再使用を減らす薬が治療選択肢になりますが、日本での承認や使用状況は物質ごとに異なります。覚醒作用のある薬や多くの市販薬の使用症では、心理社会的治療が中心です。

薬の使用によって生じた不眠、気分、知覚の変化を和らげる目的や、併存するうつ病、不安症、ADHDなどを治療する目的で薬を使う場合があります。薬を追加するときも、効果の目標、使用期間、ほかの薬との重なりを共有します。

不眠・不安・痛みなどを同時に扱う

薬が担っていた役割を無視すると、減量計画を続けにくくなります。不眠には起床時刻、昼寝、寝床での過ごし方を整え、不安には考えと行動のパターンを扱い、痛みには活動量や身体面を確認するなど、別の手段を増やします。

全般不安症などが併存する場合は、症状を我慢させるより、依存につながりにくい治療方法を一緒に考えます。生活上の目的が戻るほど、薬以外の選択肢を取りやすくなります。

回復の経過と、再び使ったときの考え方

回復に必要な期間は、物質、使用期間、量、併存症、生活環境によって異なります。最初の数週間は使用記録と生活リズムを整え、その後数か月かけて引き金への対応を試し、薬を使わない時間や日を生活へ定着させる進め方があります。

しばらく目標を保った後に再び使うこともあります。一回の使用を治療全体の失敗と決めると、記録をやめて使用が続きやすくなります。どこで、誰と、どんな気分で起きたかを早めに振り返り、薬の置き場所、予定、連絡先、受診間隔などを調整します。

経過は使用量だけでなく、睡眠、気分、集中力、出勤・通学、家計、人間関係がどう戻ったかでも評価します。本人にとって意味のある生活上の変化が、治療を続ける動機になります。

仕事・学校・家族との生活を整える

働きながら、または通学しながら治療することは可能です。使用する時間帯、翌日の眠気、遅刻や欠勤、運転や機械操作の有無を確認し、勤務や授業の組み方を調整します。疲労が強い時期は、残業や夜間の予定を減らすことも治療の一部です。

家族は、薬を探して問い詰める役より、本人と合意した範囲で購入や保管を支え、生活の変化を共有する役が向いています。お金や薬の管理を手伝う場合は、期間と見直し日を決めると対立を減らしやすくなります。本人の欠勤連絡や金銭問題をすべて代行し続けるより、本人ができる部分を残します。

仕事や生活への影響が大きい場合は、診断書、自立支援医療など、状態と利用条件に合う制度を確認します。制度の利用と治療目標は別に考え、必要な期間を診察で見直します。

受診の目安と当院での診かた

相談を考える具体的な変化

薬を使っていること自体より、「以前と違う」と感じた時点が相談の目安です。

  • 処方量や説明書の量を超える日がある
  • 減らしたいのに、同じ使い方を繰り返している
  • 薬の残数や購入のことが頭から離れない
  • 同じ効果を求めて量や回数が増えた
  • 使用後の眠気、気分、集中力が仕事や学校へ影響している
  • 家族や処方した医師へ使用量を話しにくくなった
  • 複数の処方薬、市販薬、飲酒が重なっている

量が少ない、毎日使っていない、減らす決心が固まっていないという段階でも相談できます。使用を続ける理由を含めて診察し、今できる目標から始めます。

当院で一緒に確認すること

当院では、薬の種類、使用量、時間、入手方法、増えた経過、減らした経験を伺います。あわせて、睡眠、気分、不安、痛み、発達特性、身体疾患、ほかの処方薬・市販薬、飲酒、仕事・学校・家庭への影響を確認します。

初回で詳細をすべて話す必要はありません。分かる範囲の使用状況と、最初に変えたいことを共有してください。薬の包装、写真、お薬手帳、購入履歴などがあれば参考にし、なくても診察を始められます。

物質使用症についてよくある質問

処方どおりに飲み始めた薬でも相談できますか?

相談できます。処方の経緯を尊重し、現在の量、効いている症状、困っている変化を確認します。長く飲んでいることだけで使用症を決めず、今後の使い方を一緒に考えます。

市販薬は何錠から問題になりますか?

一律の錠数では決まりません。商品ごとに成分と量が異なり、使用する目的、頻度、コントロール、生活への影響も判断材料です。説明書より多く使う、購入を隠す、減らしにくいと感じた段階で相談できます。

最初から完全にやめると決める必要がありますか?

最初の目標は相談して決めます。物質の種類、現在の使用、本人の希望に応じて、記録、一回量の調整、使用回数の削減などから始めることがあります。処方薬は医師と段階的な計画を作ります。

使っている薬を正直に話すと責められますか?

診察では、責任を問うより、使用がどの役割を担っているかを理解します。最初から正確な量を言えない場合は、幅をもたせて伝える、商品名だけ伝えるなど、話せるところから始められます。

治療しながら仕事や学校を続けられますか?

生活への影響に合わせて両立を考えられます。受診間隔、眠気、勤務時間、試験や繁忙期を確認し、実行できる減量計画を作ります。負担が大きい時期は業務や授業の調整も検討します。

家族は薬を取り上げるべきですか?

本人との合意なしに取り上げると、隠れて入手するなど対立が強まる場合があります。家族は、最近の変化を具体的に伝え、受診を提案し、合意できれば購入・保管・金銭管理を期限つきで支えます。家族だけで状況を相談することもできます。

参考文献

  1. 厚生労働省.一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について.
  2. 厚生労働省.依存症対策.
  3. 依存症対策全国センター.薬物依存症.
  4. 国立精神・神経医療研究センター.薬物依存症に対する治療と地域支援システムの構築.
  5. National Institute for Health and Care Excellence. Drug misuse in over 16s: psychosocial interventions. CG51. 2007, reviewed 2016.
  6. World Health Organization. Clinical descriptions and diagnostic requirements for ICD-11 mental, behavioural and neurodevelopmental disorders. 2024.
  7. World Health Organization. Alcohol, Drugs and Addictive Behaviours: terminology and ICD-11 categories.

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この記事は精神科医が監修しています。

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