ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬に「依存性がある」としてきた基準を使うと、ほかの向精神薬や一部の内科の薬にも「依存性がある」ということになります。
その基準とは、体が薬のある状態に慣れ、減らしたりやめたりすると不調が出ることです。このような体の変化を「身体依存」といい、減量や中止によって現れる不調を「離脱症状」と呼びます。[1]
では、なぜベンゾジアゼピン系では、特に「依存性がある」と説明されてきたのでしょうか。
背景には、薬の性質だけでなく、「依存」という言葉の意味が時代とともに変わってきたことも関係していると考えられます。[2]
1970〜1980年代、ベンゾジアゼピン系の薬を処方どおりに飲んでいても、中止すると不眠や不安、震えなどの離脱症状が出ることが分かりました。この身体依存の発見が、「依存性がある」という説明につながりました。[3]
一方、その後、例えば抗うつ薬でも、中止するとめまい、吐き気、不安などが起こることが広く知られるようになりました。つまり、抗うつ薬でも離脱症状が現れ、身体依存が起こることがあります。[4][1]
しかし、こうした症状が注目された頃には、依存の判断では「addiction(嗜癖 しへき)」、つまり薬を強く欲しがり、使用を自分で抑えられなくなることが重視されるようになっていました。[2]
抗うつ薬では通常、このようなaddictionがみられないことを根拠に、離脱症状は「中断症候群」と呼ばれ、「依存性はない」と説明されてきました。ベンゾジアゼピン系で「依存性がある」と判断する根拠となった離脱症状が、抗うつ薬にもあるにもかかわらず、基準が異なっていたのです。[5][2]
つまり、ベンゾジアゼピン系では「身体依存があるか」、抗うつ薬では「addictionがあるか」という、違う基準が使われてきたということです。[2]
WHOも、「離脱症候群」を「中断症候群」と呼び換えることが、議論をさらに混乱させていると指摘しています。[6]
この呼び分けには、研究者からも疑問が示されています。2012年の研究では、ベンゾジアゼピン系と抗うつ薬の一種であるSSRIについて、報告された離脱症状42種類のうち37種類が似ていました。著者らは、こうした症状をベンゾジアゼピン系では依存の一部として扱い、SSRIではそう扱わないことは合理的ではないと指摘しています。[2]
薬をやめた後の不調は、内科の薬でも起こります。例えば、一部の血圧の薬では、中止すると血圧や脈拍が急に上がることがあります。[7] また、長く使ったステロイドでは、中止後に体内のホルモンが十分に作られず、強いだるさや吐き気、低血圧が起こることがあります。こうした反応も、体が薬のある状態に適応していたことと関係しています。[8]
そのため、ベンゾジアゼピン系に「依存性がある」としてきた身体依存という基準を使うと、ほかの向精神薬や一部の内科の薬にも「依存性がある」といえます。ベンゾジアゼピン系だけが特別に依存性があるわけではありません。「addiction」もベンゾジアゼピン系にはまれにしか起きないとされています。[1]
大切なのは、「依存性がある・ない」という言葉だけで判断せず、どのような離脱症状が、どのくらいの強さで、どのくらい起こりやすく、どのくらい続くのか、また、薬を強く欲しがり、使用を自分で抑えられなくなる「addiction」が起こる可能性はどのくらいあるのかを知ることです。お薬の中止や減量は、こうした違いを踏まえ、処方医と相談しながら進めていきましょう。[9]
参考文献
- Horowitz MA, Framer A, Hengartner MP, Sørensen A, Taylor D. Estimating Risk of Antidepressant Withdrawal from a Review of Published Data. CNS Drugs. 2023;37(2):143–157. doi:10.1007/s40263-022-00960-y.
- Nielsen M, Hansen EH, Gøtzsche PC. What is the difference between dependence and withdrawal reactions? A comparison of benzodiazepines and selective serotonin re-uptake inhibitors. Addiction. 2012;107(5):900–908. doi:10.1111/j.1360-0443.2011.03686.x.
- Petursson H, Lader MH. Withdrawal from long-term benzodiazepine treatment. British Medical Journal (Clinical Research Edition). 1981;283(6292):643–645. doi:10.1136/bmj.283.6292.643.
- Haddad PM. Antidepressant discontinuation syndromes. Drug Safety. 2001;24(3):183–197. doi:10.2165/00002018-200124030-00003.
- Haddad P. Do antidepressants have any potential to cause addiction? Journal of Psychopharmacology. 1999;13(3):300–307. doi:10.1177/026988119901300321.
- World Health Organization. WHO Pharmaceuticals Newsletter. 2003;No. 1:9. Geneva: World Health Organization.
- Geyskes GG, Boer P, Dorhout Mees EJ. Clonidine withdrawal. Mechanism and frequency of rebound hypertension. British Journal of Clinical Pharmacology. 1979;7(1):55–62. doi:10.1111/j.1365-2125.1979.tb00897.x.
- Beuschlein F, Else T, Bancos I, et al. European Society of Endocrinology and Endocrine Society Joint Clinical Guideline: Diagnosis and Therapy of Glucocorticoid-induced Adrenal Insufficiency. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2024;109(7):1657–1683. doi:10.1210/clinem/dgae250.
- Brunner E, Chen CYA, Klein T, et al. Joint Clinical Practice Guideline on Benzodiazepine Tapering: Considerations When Risks Outweigh Benefits. Journal of General Internal Medicine. 2025;40(12):2814–2859. doi:10.1007/s11606-025-09499-2.